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この文章を書いたのは?

カリフォルニア大学 バークレー校 数学科 PhDプログラム3年

高橋 悠貴

ハムサンドイッチの定理の一般化

みなさんは数学の研究というとどのようなものを思い浮かべますか?あまり想像がつかない方も多いかと思うので、今回は私が大学生の時に共同で研究したハムサンドイッチの定理の一般化について紹介したいと思います。まずは問題を理解するために、こんなシナリオを考えてみましょう。

ピクニックにて…
あなたは友達とふたりでピクニックにきました! が、いくつか問題が…

  • サンドイッチ(ハム、チーズ、パン)はふたりで1個しかない
  • サンドイッチは動かせない
  • ふたりとも几帳面なので、それぞれの材料を完璧に半分ずつにしたい

さて、このサンドイッチを包丁で(平面に沿って)一回切るだけで、それぞれの材料を半分にできるでしょうか?上の絵のようなきれいに積み重なったサンドイッチだったら比較的簡単かもしれませんが、もしすべての材料がばらばらかつ(ちょっと汚いですが)ぐちゃぐちゃに広がってしまっている場合ではどうでしょう?ばらばらサンドイッチでも、それぞれの材料を動かさずに各材料を二等分することはできるでしょうか?

ハムサンドイッチの定理はこれができる!ということを証明している定理なんです。もう少し厳密にいうと3次元上にある物体※1 (ピクニックの場合ではハム、チーズ、パンの3つ)をそれぞれ等分するような平面が存在する、という定理です。この定理はトポロジーという分野で重要なBorsuk-Ulamの定理を使って証明できます。

定理を一般化する
数学の研究では、既知の定理を一般化することを目標とすることが多くあります。でも一般化ってどういうことでしょう?例えば、ハムサンドイッチの定理では以下のような一般化が考えられます。

定理1(ハムサンドイッチの定理):3次元上にある3つの物体をそれぞれ等分する平面が存在する。

定理2:d次元上にあるd個の物体をそれぞれ等分する超平面が存在する。

定理3:d次元上にあるd+k―1個の物体をそれぞれ等分するk個の平行な超平面が存在する。

ここでは、dやkはどんな自然数でもOK。定理3はk=1とすると定理2になり、定理2はd=3とすると定理1になるので、1→2→3の順に一般化されています。定理3のいいところは、サンドイッチの材料が増えても定理を適用できるところです。例えば、3次元上にある4個以上の材料でできたサンドイッチ(右下のパン、トマト、レタス、ベーコン、の4つの材料でできたBLTサンドイッチや、左下のパン、チーズ、レタス、トマト、ハムの5つの材料でできたサンドイッチなど)を友達と半分にしたいときでも、定理3を適用することができるのです。

 

定理1と2はハムサンドイッチの定理としてすでに証明されていましたが、私が研究を始めた2022年時点では定理3は証明されておらず、予想という位置づけでした。私は定理3のk=2の場合を共同で証明し(論文はこちら)、今年別のチームによって定理3が実際に証明されました(こちら)。

今回紹介した一般化は一例で、ハムサンドイッチの定理にはほかの一般化も知られています。これらの関連した定理では食べ物に関係した名前を付けることが多く、パンケーキの定理(定理2のd=2の場合)に始まり、ケーキスパイシーチキンピザなど様々な食べ物の平等な切り分け方を考える、という切り口で多くの関連定理が証明されています。数学の研究というととっつきにくい印象があるかもしれませんが、実は身近にある食べ物の切り分け方から着想を得て興味深い数学の研究をすることもできるんです。皆さんも今度食べ物を二等分する機会があったら、ハムサンドイッチの定理を思い出してみてくださいね。

※1 本文中では物体としましたが、厳密には可測な集合(数学的に大きさを測ることができるもの)などの制限が必要です。

※2024年9月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。

☆この記事を執筆された高橋 悠貴さんは数理女子のリアルライフにアメリカの大学院生活という記事もご寄稿くださっています。併せてご覧ください。

著者略歴

カリフォルニア大学 バークレー校 数学科 PhDプログラム3年
高橋 悠貴
ハムサンドイッチの定理とはあまり関係のない分野ですが、専門は数理論理学の一分野であるモデル理論です。最近はモデル理論のアイディアを利用したFreimanの定理の一般化に興味があります。

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