公認会計士と数学の意外な関係
公認会計士をご存知ですか?
数理女子をご覧の皆さん、はじめまして。日本公認会計士協会会長の関根愛子です。皆さんは、公認会計士という資格をご存じでしょうか?名前は知っているけど、何をするのかはよくわからないという方も多いのではないかと思います。実は私自身も、学生時代は、公認会計士という名前は聞いたことがあったような・・という程度でした。そのような私が何故、日本公認会計士協会の会長に?そもそも公認会計士協会の会長が、なぜ、数理女子のこのページに?公認会計士と数学って何か関係があるの?と思われるかもしれませんが、実は、私は、大学で数学を専攻していました。
数学を専攻した私が公認会計士になりました
私は、元々、数字が何を意味するのかを考えたり、物事を論理的に考えるのが好きでしたので、大学の専攻として数学を選びました。そこで専門的な数学の勉強を始めたものの、違う世界もみてみたい、もう少し幅広い仕事をしたいと考え、一般の就職先を探しました。しかしながら、当時の女子学生の就職は厳しく、外資系の銀行に就職したものの、就職後の研修や配属で、男女の扱いに大きな差があるという現実に直面し、仕事を続けていくのには、何か資格を取るのが良いのではないかと考えていたところ、公認会計士の資格を知り、公認会計士となりました。
とはいえ、当初、私自身、公認会計士は、大学で専攻した数学の世界とは縁遠いものと思っていました。ただ、卒業をして就職した銀行で企業活動というものを垣間見て、そうした企業の活動やお金の動きを数字によりシステマティックに記す帳簿や簿記というもの、そうした会計を専門とする公認会計士に興味を持ったのは、今から思えば、大学で学んできた数学的思考が潜在的にあったのではないかと思っています。
公認会計士の仕事は数学で学んだことが生きる世界です
公認会計士として何年か仕事をするうちに、実は、数学を通じて学んだことは、今の仕事に役立っているのではないかと感じるようになりました。たとえば、公認会計士は、会社の決算の数値が正しく作成されているかを監査しますが、会社は日々、多くの取引を行っており、その全てをみていくわけではありません。会社を取り巻く経済環境や会社の特性などを理解して、決算の数値に間違いが生じるリスクが高いところに対して、統計的手法でサンプル数を決定、抽出して手続を実施し、結論を導き出すといったことも行われます。
さらに、近年では、AIの有効活用も忘れてはいけないテーマです。公認会計士をはじめ、さまざまな職業がAIに取って代わられるという報道も見受けられますが、公認会計士の仕事に関して言えば、現在は過渡期なのではないかと思っています。IT化が進み複雑化する現代にあって、リスクが高いところを特定してサンプル的に行う手続が膨大になりつつあります。そのため、監査を行う公認会計士が足りない、時間が足りないといった現象が起きていますが、その部分はむしろ、ITやAIに取って代わってもらい、公認会計士は、機械ではできない判断業務やコミュニケーションに注力すべきと考えています。したがって、AIをどのように有効活用するかという観点が重要であり、そうした思考を持った方も求められてきています。
このように、公認会計士は、私が学生時代に考えていたのとは異なり、数学で学ぶことが生きる世界であり、現在においては、むしろそうした傾向が強くなってきているのではないかと思います。実際、公認会計士試験の選択科目のひとつに統計学が追加されています。また、監査においては、様々な状況を考慮して判断を加えていく必要がありますが、数学で学んだ様々な角度から物事を見る論理的思考も生きていると感じています。
求む、数理女子!
ここまで監査の話ばかりをしましたが、公認会計士の仕事は近年多岐に亘っています。そのため、最初は監査を通じて様々な企業をみて、その経験と資格を生かして、出産、育児等のライフイベントにあわせて、様々な働き方をする女性が増えています。数学が好きで学んでいるけど、もう少し別の世界もみてみたいという「数理女子」をご覧の皆さんの中には、天職と感じられる方がいらっしゃるのではないかと思います。
※2018年3月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。
著者略歴
監査法人のパートナーを経て現職。
趣味は、旅行、温泉地巡り。