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この文章を書いたのは?

理化学研究所
理論科学連携研究推進グループ・分野横断型数理科学連携研究チーム
特別研究員

小鳥居 祐香

数学を使って自然現象を考える

私は現在、理化学研究所(理研)で数学、特にトポロジーの研究をしています。理研にはこれまで数学をテーマとする研究室はありませんでしたが、昨年度に自然科学との融合研究を目的として新設されました。私の所属するチームには数学者、物理学者、化学者、生物学者等が混在しています。分野の垣根を超えて、日常的にたくさんの交流があり、先生から学生まで皆仲が良くとても楽しい職場です。

 自然科学との融合研究では、他分野の研究者達と一緒に議論をして、問題意識を共有し、それぞれの得意な分野の知識を提供することで、新しく画期的な研究成果を生み出すことを目標としています。このとき数学者の大事な役割は、数学の研究で培ってきた“概念”を自然科学へ導入することだと思います。これによって新しい物の見方を与えることが、異分野との融合研究における最も重要な要素であると思います。

 私が異分野との融合研究に特に興味を持ったのは、博士課程3年の時です。イギリスのインペリアルカレッジロンドンに数ヶ月間留学することになり、数学科の研究室に受け入れてもらいました。研究室の先生は数学者でありながら生物学との融合研究も行い、所属学生も数学の研究をしながらそれぞれ生物学者と共同研究をしていました。そこで見た研究スタイルは私にとってとても斬新で、融合研究に対する数学者の貢献の仕方の認識が変わりました。

それまで私は融合研究とは、生物学者が直面した解けない数式や問題に対して、数学者が適切なアプローチを考えて問題を解決する、という役割分担をイメージしていました。しかし、インペリアルカレッジで行われていたのは、実験で得られたデータを生物学者と数学者が一緒に議論し、そこから問題を作り上げ、解いていくという共同作業でした。そしてそこで必要とされていたのは“数学者の視点”であることに気づきました。

 もともと融合研究に興味があった私は、その時「こんな研究をしてみたい!」と思い、現在の研究室に応募しました。融合研究の楽しい点は、色々な人と交流ができ、色々なものの考え方を学べるところです。学問によって慣習が異なっていて、そのちょっとした違いを発見するのが最近の楽しみです。

日本の研究機関ではこの様な数学と異分野との融合研究はまだまだ少ないです。理研でもこの試みは始まったばかりですが、今後この様な研究形態はどんどん増えていくと思います。身の周りのさまざまな自然現象を、数学を通して視ていくことで、今まで知られていなかった新しい世界が開けるかもしれないと期待しています。

※2017年7月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。

著者略歴

理化学研究所
理論科学連携研究推進グループ・分野横断型数理科学連携研究チーム
特別研究員
小鳥居 祐香

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