数理女子座談会 〜慶應義塾大学〜:数学と私たち 後編
前編に続き、後編の今回では、慶應義塾大学での生活、彼女たちの今に注目していきます。そして数学の道へ進もうとしている皆さんへのメッセージも!
――慶應数理の講義はどんな特徴がありますか?
奥田さん:数学といえばひとりで学ぶイメージが大きかったので、5~6人で行うグループワークが本当に楽しかったですね。グループになった人の個性もでますし、意見も色々でてきます。自分の意見を見つめなおす機会にもなって学ぶことがたくさんありました。
小野さん:そのイメージは確かにあるよね。どこか専門性の高いイメージがあっただけに、みんなで一緒に問題を考えることに私も驚いた。みんな高校数学から大学数学になって苦労した講義とかはあったの? 私はイプシロンデルタに苦労したなぁ。
嬉野さん:私はどの分野もきちんと身につけるまでに少し苦労したな。でも、実解析の講義の中でも確率論の内容がでてきたり、全然違う講義でも数学全体の繋がりがあることに気づいてからは、本当に面白くなった。身につけておいてよかったって心から思ってる。
篠田さん:逆に一番面白い講義といえば何だった?
小野さん:全部!
篠田さん:本当に?(笑)。
嬉野さん:最初、数学の先生といえば、少し気難しいイメージがあったけど、実際はそんなことなくて、本当に優しく教えてくれる。質問もしやすいよね。
篠田さん:実解析の講義は面白かったよ。久しぶりにノートを見返してみたら先生の名言までメモしてあって……「人類は概念の拡張によって新たな混乱出会う」とか。講義はわかりやすくて面白いし、こんな名言まで出てくるなんて思わなかった(笑)。
笹野さん:統計で使用した『R』という統計ソフトの勉強も面白かったよね。実際にデータを作ろうとすると日本地図が出てきたり、一見ただの数式が相関のある図になっていたり、とにかく新鮮で楽しかった。
奥田さん:私は群論の授業。講義で習う前に、一度友達と勉強する機会があったけど、その後に講義に出たら、自分の知っている物事をあらたに色んな方面から見ることができるようになりました。上から俯瞰的に見下ろしているような……いままで体感したことの無い、新しい感覚でした。
――この講義を受講してためになった! と思うようなことはありましたか?
小野さん:統計を学んでいると色々と気になることが出てきました。こういうことをしている人は幸せになる!みたいなグラフを見ても、それは相関関係※6を表しているだけで、そこに因果関係がなければ意味は無いのに……みたいな。ちょっとしたことでは騙されなくなりました(笑)。
奥田さん:数字を出されたからと言って、納得できるわけではないですよね。むしろ、数学の証明とかは数字だけでなく論理的な問題になるから、思考も自然に論理的になります。会話でも論理的な話し方の方が信頼できるし。混乱した時とかは一度紙に書いて落ち着いたりして、冷静になって、定義から見直してみるというか、論理的になんで混乱しているのかを改めて確認することが大事だと思うようになりました。これは、議論の時に活きたりしますね。
――講義外での生活などを教えて下さい
篠田さん:紙と鉛筆あれば勉強も研究もできるし、自分の時間を作りやすい専攻だというのは、実は意外でした。実験系とかの他の専攻と違って、研究室にこもったりしないから、勉強も趣味も日常生活もスケジュールを組み立てやすいんです。塾の講師のアルバイトもできて……そこでも数学を教えています。
奥田さん:数学は理解するのも簡単ではないけど、それを教えるのも難しいよね。連立方程式や一次関数とかも、交点を説明してもなかなか伝わりづらかったりする。
篠田さん:塾のアルバイトをしている人同士で、引っかかった場所の話し合いはよくあるよね。
奥田さん:あるある! (笑)。
――最後に、今後受験を控えている中高生に向けてメッセージをお願いします!
笹野さん:数学が好きな女性は少ないかもしれませんが、大学にくれば必ず気の合う友達ができます。数学が苦手でも教えてくれる方が必ずいます、ぜひ来てください!
奥田さん:私は数学が好きですが、興味のない親からは「数学をやってて楽しいの?勉強大変じゃない?」なんて聞かれることもあります。たしかに勉強は大変だけど、「大変」のあとに「面白い」がやってきます。数学が好きなら絶対に楽しい生活をおくれるはずです。前向きに挑戦してみてください!
小野さん:数学を学ぶ女子ってまだまだ少なくて、思うように理解されなくて困っている人もいると思うんです。でも、数学の道を選んだから出来なくなることなんてないし、その道を選んだからこそ得られる物も多い。だからこそ自分のやりたい道を選んで欲しいです。
嬉野さん:私は初めは工学系の進路を考えていて、どこに進むか悩んでいました。そんな時に数学科の先生と勉強していく段階で、色んな謎を解いていく楽しさに気付くことができました。ただ公式にあてはめて答えを出すような勉強だけでは分からなかったと思います。これをやりたい! という気持ちがあるならば、捨てるのはもったいない! 興味があるならぜひとも来てください。
篠田さん:私は女子高出身で男子も多い数学科に入学することが少し怖かったです。でも、そんな気持ちは杞憂にすぎませんでした。友達も沢山できたし、門をたたいて良かった、と思うことがいっぱいありました。やりたいことがあるなら理由をつけてあきらめないで、納得できるまで挑戦してみて欲しいです。楽しいキャンパスライフが待ってます!
――数学は特別に難しいものでは決してない。仲間が待っているから、興味があったら数学の道を選んで欲しい。数理女子達のリアルメッセージでした。本日はありがとうございました。
※6 相関関係:2つのデータがどれだけ同じ振る舞いをしているかの関係。相関関係があったとしても、因果関係があるとは限らない。
※2016年3月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。