自然の美しさと数学による構造研究
数理女子の皆さん、東北大学の小谷元子です。このページをご覧になっているということは数学が好き!と仮定して良いでしょうか? いや、好きでも、好きでなくても、怖いもの見たさでも、なにか興味を持って訪問されたのでしょうから、大歓迎です。
専門は幾何学、図形の形を調べる研究をしています。自然界には美しい形が満ち溢れています。太陽や月は球体を、水面におちた水滴の波紋は同心円を描き、蜂の巣は六角形がきれいに並んでいます。なぜ、自然は美しい形を好むのか、いえ、もう少し正確に問いをたてるなら、なぜ我々は自然の選んだ形を美しいと思うのでしょうか? 私は、このような不思議を理解したいと思って幾何学、なかでも幾何解析学という分野で研究してきました。随分と抽象的な研究だと思っていたのですが、これが物質探索にかかわることが最近分かってきました。
我々の生活の基盤は物質です。物質は、軽い・重い、固い・柔らかい、電気を通す・通さないなど数々の性質を持っています。物質は原子というとても小さい粒が集まってできていますので、この原子どうしがどのように相互作用をして、どのような構造を作るかによって、これらの物質の性質が決まります。原子は我々が肉眼で見ることができないほど小さいですが、自然はこの原子達を上手に配置させて、美しい構造を作り、そして様々な性質を生み出しています。そして、それを我々が日常の生活を豊かにするために活用しているのです。それならば、自然が美しい形を作る仕組みを研究してきた私にお任せください。お望みの性質を持つ物質をつくるように原子を整列させてみましょう、といいたいところですが、物質探索はもちろんそれほど甘くはありません。新しい物質を作る技術やそれを支える科学に関して、日本は世界をリードしています。たくさんのノウハウや知識が蓄えられています。その素晴らしい発見・発明をなんとか数学にできないかということが、現在の私の興味です。
実は、私は東北大学のなかの理学研究科数学専攻の教員であるとともに、Advanced Institute for Materials Researchという物質の研究をする研究所の所長でもあります。上に書いた妄想を実現したいと研究所の仲間と研究を進めています。数学者をヘッドにしているだけではなく、世界中から研究者が集まった国際的な研究所であり所員のうち日本人は半分、研究所の名前も英語が正式という、個性的な研究所です。数学は学問としても魅力的ですが、国を超えて、学問分野を超えて、様々な出会いがあり楽しいですよ。新しい発想をもたらしてくれる人がどんどん飛び込んで来てほしいと願っています。
※2016年3月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。