カブリIPMUでのインターン体験記
このインターンシップの期間は、まさしく「研究体験」ができた非常に濃い一ヶ月でした。
これに先立って、”McKay correspondence、 Tilting theory and related topics”という研究集会に参加し、インターンシップのテーマに関連する講演を数多く聴きました。McKay correspondence(マッカイ対応)とは、正多面体の対称性や曲面の特異点、”空間”の対称性(単純リー群)などの間にある不思議な関係のことです。この話題について多くの研究者が様々な側面から活発に研究し続けているのだということを、5日間を通して肌で感じることができ、非常に魅力的な世界だと思いました。その一方で、学部4年の私でも扱える数学的な道具で、何かできることはあるのだろうかと気になり始めました。
McKay対応とはなんだ?もっと知りたい、という気持ちをもって、インターンシップに臨み、最初は、基本的な計算をしながら、”McKay対応”を実際に確認してみるというようなことをしました。”McKay対応”の中でも、SL(2、C)の有限部分群の既約表現と、その群由来の代数多様体の特異点を解消した空間の例外集合との関係に焦点を絞り、特異点を色々な方法で解消してみたり、群指標を用いた計算をしたりしました。その後さらに、伊藤先生の視点を借りて別の計算を試みたり、関連する論文を読んで勉強したりしながら過ごしているうちに、いつのまにか、McKay対応に関する数十年の研究の歴史の一端を追体験していました。そしてその過程で、丁寧に考えつつ視点を持ち直せば、よく知られた中にも新しい面白い問題があるものなのだということに気付かされました。
この一ヶ月の生活は、八木さんと数学の議論をしたり、カブリIPMUの研究者や院生の方達に講義をしていただいたり、皆さんとご飯を食べに行ったり、お茶をしたりと非常に充実したものでした。
そして、滞在中、研究者や院生の方々が研究を進めている現場や、カブリIPMUの中心にある交流広場で議論や雑談をしている様子に毎日接し、強いエネルギーを感じて刺激を受けました。また、パワフルに活動されている数々の女性研究者ともお会いできて、心強い気持ちになりました。
勉強面でも生活面でも充実したこの一ヶ月を、今後大学院での生活に活かしていきたいと思います。
参加時:大阪府立大学 数学科4年
執筆時:大阪公立大学大学院 理学研究科 数学専攻 修士1年
松澤 晴子
今回私はカブリIPMUで行われた学部生の女子向けのインターンに約1ヶ月間参加させて頂きました。松澤さんに誘われて参加を決めたものの、実のところ実際にカブリIPMUに赴くまではカブリIPMUやそこで働く研究者の方々を少し怖いと思っていました。というのも、カブリIPMUは国際的にも最高峰の研究所ですし、競争的な場所なのではと勝手に想像していたからです。しかしインターンを通して多くの研究者の方や大学院生の方と話したりその姿を間近で見たりして感じたのは正反対の印象でした。もちろん議論はとても活発でその内容も(私にはほとんどわかりませんが)とても高度なものですが、何より皆さんがそれぞれ研究を楽しんでいて、その楽しさを人と分かち合いさらにより良いものを得ようとしているのがひしひしと伝わってきたのです。今回のインターンを通して、私も研究というものの一端に触れ、その楽しさを肌で感じることができました。
インターンの中では受け入れてくださった伊藤先生やその研究室のメンバーの方々に入門的な講義をしていただく傍ら、先生に指導や助言をいただいて私たち2人でも課題に向き合い自分たちで研究を進めました。その中で、もちろん思うようにいかないことや理解しきれないことに悔しさを覚えることもありましたが、自分の頭で考え、計算し、そして考えを共有して議論して、その末に発見や証明を得た時には大きな達成感と喜びを感じられました。これは勉強というインプットだけでは得られない、自ら道を切り開いていく研究ならではの悦びだと思います。この春から私は大学院へ進学しますが、私にとって初めての研究とも言える今回の経験における嬉しさ、楽しさを大事にさらに本格的な研究へ邁進できればと思います。この記事を読んでいる数学に興味のある方々に、少しでも楽しさが伝われば幸いです。
今回このような貴重な機会をいただけたこと、また、私たちを温かく受け入れてくださったカブリIPMUの皆さま、指導・助言をくださり私たちに数学の楽しさを伝えてくださった伊藤先生に心より感謝申し上げます。
参加時:奈良女子大学 理学部 数物科学科数学コース 4年
執筆時:大阪大学大学院 理学研究科 数学専攻 修士1年
八木 雪野
2023年度に、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(IPMU)では、東京大学未来社会協創(FSI)基金による事業「カブリIPMUダイバーシティ・イニシャティブ」による活動として、2人の学部女子学生をインターンとして1か月間、受け入れました。期間中に、大学院生やポスドクによる入門講義でいろんな数学に触れてもらい、実際に数学の問題を考えることもできました。大学院生以上の研究者しかいない環境で、論文を読んだり、黒板で議論したり、ティータイムで数学以外の研究者とも交流し、研究者の生活をいろいろな角度から観察・体験できる機会になったことでしょう。
カブリIPMUでは、過去に海外からの学部生をインターンとして受け入れたことはありますが、日本の大学生を受け入れたのは今回が初めてでした。短期間で本格的な研究をすることは難しいと思いますが、民間企業のインターン同様、このようなインターンも大学等の研究者を職業の選択肢として考えるいい機会になると思います。
東京大学 カブリ数物連携宇宙研究機構(IPMU)・教授・伊藤 由佳理
※2024年6月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。
著者略歴
大阪大学大学院 理学研究科 数学専攻・修士1年・八木 雪野
大阪公立大学大学院 理学研究科 数学専攻・ 修士1年・松澤 晴子