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この文章を書いたのは?

東京都立大学大学院 理学研究科 数理科学専攻 博士後期課程3年

秋山梨佳

数学科博士課程の就職活動について

はじめに
数学科出身の博士の就職先、と聞いてみなさんはどんな仕事を思い浮かべるでしょうか。ここでは一例として、私が経験した就職活動と、それを通して考えたことなどをすこし、お伝えできればと思います。

就職活動をすることにした理由
D2の秋ごろに、取り組んでいる研究のまとまった結果を出すことができ、論文執筆の目処が立ちました。そこで心理的に余裕ができたこともあり、自身の将来について真剣に考えるようになります。私の周りでは、博士課程を出た人はアカデミアの世界に残る人が多く、就職活動をする人はあまり見受けられませんでした。私はこれまで一度も就活をしたことがなく、加えて、アカデミア以外に数学科出身の博士人材の行先はないのか?という疑問もあったため、じゃあ自分でやってみよう、ということで初めての就活をすることにしました。

出張先のウィーン大学にて

博士の就職活動の実際
就職活動を意識し始めたのはD2の11月ごろです。実際に会社説明会などに参加し始めたのはD2の12月からでした。ここで一つ幸運だったのは、私の研究活動と一般的な就活の、それぞれの忙しさのピークがちょうどよくずれていたことです。当時の手帳を見ると、内定がでたD3の6月までの間に計11社受けていました。また、実際に説明会に足を運ばずとも、候補として求人資料に目を通した会社も含めると25社くらいになります。私の場合は、修士/博士の理系大学院生に特化した就職活動のサイトに登録し、そこで担当になったエージェントの方を通じて求人の情報を得ていました。私の見た限りですが、数学科出身の博士人材が求められている職種として、システムエンジニア、専門書の編集職、金融技術職などがよく目に入りました。選考フローは概ねどこも同じで、会社説明会→エントリーシートの提出→1次面接→…→最終面接という流れです。おそらく、学士/修士卒の方々が経験する就活と大きな差はないと思います。その中でも、博士の就職活動の一番の特徴は?と聞かれると、これまで自分が取り組んできた研究内容を「異分野の人にも」伝わるよう話せる力が強く求められているように感じました。企業側は求める人材像を提示し、学生側は自分のできることを説明する。そしてその擦り合わせを選考の過程で行っていくというイメージです。なので、自分の思うことを誤解なく相手に伝え、相手の話すことを正しく受け取る、という意味でのコミュニケーション力が大事になると思いました。

キャリア選択の決め手
就職活動を通して得られた一番の収穫は、「私はなぜ博士課程に進学したのか」「本当にやりたいことはなんだっけ」という自問自答を繰り返すことで、自分が今後仕事をするうえで大事にしたい部分を純化できたことです。今の私の気持ちとしては、数学と社会の距離を近づける研究をしたい、というのが第一でした。そして最終的に、企業の研究所で数学の研究をするという選択をしました。私の持論となってしまいますが、就職活動とは、これから自力で食べていかなければいけないという現実と、自分にはやりたいことがあるという理想の間で、(自分にとって)ちょうどいい場所を見出すことだと思っています。また、数学科出身の博士はアカデミアに残り続けるのが主流、というのが、私が感じている今の雰囲気です。それに対し、選べる選択肢は多いに越したことはない、というのが私の考えです。「数学を博士課程まで研究して将来何になるの」という質問は、社会の持つ素朴な疑問として、これまでよく訊ねられてきました。これに対し、アカデミアで大学教員を目指す道の他にも、企業の研究員(また、それを経て大学に戻る)など、専門性や研究を通して培った力を生かせる仕事はいろいろあるよ、と自信をもって答えられるように来年度以降は過ごしていきたいと思っています。

さいごに
余談ですが、私は高校生まで数学が大の苦手でした。いろんな縁があって日本女子大学に入学することになり、そこでこれまでの数学に対する印象が大きく変わる講義を受けます。そこから数学にハマり、気づけば博士課程まで数学の研究をし続けてきました。また、今回私が内定をいただいたNTT研究所を知ることができたのも、D2の冬から採用された弊学の「多視座を涵養する『双対型』人材育成プロジェクト」の企画を通して得られた、ある先生との出会いがきっかけです。
来るべき時に来た機会をしっかり掴めるよう、日ごろからできることをコツコツと積み重ね、様々な方向にアンテナを張っておくこと。これが、博士課程の就職活動を通して得られた私の一つの教訓です。

 

※2023年3月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。

著者略歴

東京都立大学大学院 理学研究科 数理科学専攻 博士後期課程3年
秋山梨佳
日本女子大学で学士(理学)、首都大学東京(現:東京都立大学)で修士(理学)を取得。
微分幾何学、特に写像の変分問題とその周辺の研究をしています。
趣味は読書と映画と料理、特技はなんでもおいしく食べることです。

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