「好き」が結んだ数学とことば
数理女子をご覧のみなさん、はじめまして。私は、大学と大学院の6年間数学を学び現在はIT系の企業で自然言語処理(機械学習)に関わる仕事をしています。主な業務は、自然言語処理の技術を使う分析ツールの開発や、ユーザーサポート、分析作業です。名刺の肩書は研究員ですが、最近は、データサイエンティストと自己紹介しています。
ここでは、私が数学科に進学した理由と、その選択肢がどのように今につながっているかについてご紹介します。
私が大学進学の際に数学科を選んだのは、数学が好きだったからです。好きになったきっかけは、高校の数学教員であった父が、問題を解く楽しさを教えてくれたからだと思っています。またご縁があって、中学生のころから、大学数学の講義の内容を知る機会も何度かいただきました。(式の)計算や文章題を解くことだけが数学ではないと知ったことは、衝撃でもあり、また数学の奥深さを垣間見た気がして、強く興味をひかれたことを覚えています。
ただし私自身は大学に進学するまで、教科書以外の数学を積極的に学んだということはありません。数学書を読んだりすることもありませんでしたし、数学オリンピックなるものがある、ということも知ったのは高校を卒業してからです。
大学で数学を学び始めた当初は、新しい知識を知れば知るほど分からないことが増えていき、数学の奥深さに圧倒されました。その代わり、少しずつでも数学の世界を知ることができるということはとても楽しく、数学の好きな面も増えました。そして、その楽しさを伝えられたらいいと思って、教員免許を取得することを決めました。教職課程の講義を通して、自分が知っていることを、基本的には初学者である相手に理解できるように伝えることの難しさと面白さを知りました。
数学を勉強するうちに興味を持ったのが「ことば」です。数学は、表記の定義を行って、その定義に従って数式を書いていきます。言語も、モノと言葉の対応を定義して、言葉を並べることで文章を作るという点で、数式を書くことと似ているなーと思い、読書好きであったことも相まって、言語の世界にも興味を持ち、一般教養では言語学にかかわる講義を中心にとっていました。
就職先を決めるにあたっては、好きな「数学」に関われる仕事であることが最優先でした。教員免許を取っていたこともあって、教える側になるか、数学を使う側になるかを迷いましたが、使える側になりたいと思って就職先を決めました。数学だけでなく、「ことば」と関われて、かつ数学を現実世界へ役立てられる今の会社に巡り会えたことは幸運だと思っています。
分析する際の思考の組み立ては数学で培った思考力が役立ちます。ツールを利用される方へのサポートは原則メールで行いますが、間違いがなく、かつ相手に理解してもらえるよう、数学の「正しさ」を求める感覚や、教職課程で身についた「初学者であることを前提に」の感覚を大事にして、文章を作成しています。
自然言語処理については、今の会社に入ってから知りました。初めて知る世界でしたが、ことばが好きなこと、新しい世界を知る楽しさがあり、様々な書籍や論文を読んで知識をためていきました。まだまだ知らないことも多いですし、自然言語処理の世界も日々技術が進歩していますので、今も勉強中です。
大学を選んだ時も、就職を決めた時も、自分が何を好きで、何だったら続けられそうかを考えました。しんどいと思う時もあるかもしれないけれど、自分が決めた、好きなことを続ける、ということが自分を律してくれます。これから先も、自分の「好き」を大事にしたいと思っています。
※2019年5月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。
著者略歴
慶應義塾大学大学院 基礎理工学科 修了
趣味は読書。最近の休日は、裁縫をしています。
無心になってチクチクと手を動かしている時間が至福です。