本づくりに数学の夢を込めて
数年前まで編集者になるなんて想像もしなかった
私は、理工系出版社で編集の仕事をしています。とはいえ、やっと三年目に突入したばかり。まだまだ、学ぶことだらけの日々を送っています。今回は、そんな私が編集に携わることになった経緯や、仕事の魅力を紹介したいと思います。
「なんとなく」で大学院に進学
学生時代は有限群の表現論を学んでいました。不勉強な学生で、研究には挫折しました。無気力に過ごしていた学生時代については、後悔の念でいっぱいです。それでも、数学研究に足を踏み入れて実感した数学の奥深さや、先達が積み上げてきた理論の上に新しい概念や定理を構築していくことの崇高さを直に感じられたことは、貴重な経験でした。
きっかけはTeX
大学院修了後、幼い娘がおり、就職先もなく、このまま専業主婦になるのかなと思っていました。しかし、将来設計をしてみると、ここで踏ん張らなければならないのでは、と思い始めました。数学に関わる仕事ならできることがあるかもしれないと一念発起し、理工系出版社のアルバイトに応募したところから今があります。
現在、理工書の組版にはTeXという組版処理システムを使用することが多いのですが、数学科出身でTeXが使えたため、編集補助の仕事をすることになりました。編集補助のアルバイトを二年ほど経験した後、縁あって、現在勤めてる出版社に就職しました。実は、アルバイト中は教員の採用試験も受けましたが、人に教えられるだけのものを持ち合わせていないと思い断念しました。転職したときは、子供二人を抱えて新しい環境に飛び込むことになりました。今から考えればあまりに向こう見ずでしたが、そんな私を迎えてくれた職場と、背中を押してくれた家族には感謝してもしきれません。
理工書編集者の仕事
数学が好きなみなさんの中には、専門書の編集に興味がある方も多いのではないでしょうか。ここでは、編集者の仕事を簡単に紹介します。編集者の仕事は、企画と編集に大きく分かれます。
「こんな本があったらいいな」を具現化していくのが企画の仕事です。著者と相談し、書籍の構成や書名など、読者の方々を想定しながら決めていきます。遠い雲の上の存在である先生方と、編集者という肩書を盾にしてお話しし、本の骨格を作り上げることができるのが、何といっても企画の楽しみです。
著者から原稿をいただいたら、最終的に書籍の形に仕上げるのが編集の仕事です。まず、原稿を素読みし、レイアウトを決めて印刷所に入稿します。印刷所から初校が出てきたら、校正をします。校正では、文章や数式のミスに赤字を入れるほか、読者の視点に立ち、わかりにくいと思われる箇所には追記や修正の提案をします。この校正を2, 3度経たものが書籍になります。原稿をいちばん最初に読めるのが編集者の旨味ですね。また、書籍の内容をイメージしてカバーのデザインを決めるのも編集の仕事の一つです。
数学書の企画・編集では数学科で学んだことが存分に活かせます。おそらく、研究者以外のどんな仕事より、数学科で得た知識が直結するのではないでしょうか。
これからの展望とメッセージ
私が一から企画した本はまだ世に出ていません。現在は、物理のシリーズを担当しており、数学書については単行本の企画・編集をポツポツとしている程度です。
将来、もしも子供たちが私の携わった本を手にすることがあったら、「よい本だね」と言ってくれるような書籍を作っていきたいですね。
これからを担う「数理女子」をご覧のみなさんに自戒を込めてひとこと!「先のことをいくら熟慮しても答えは見つからない。やってみてから考えるしかない。」じっくり考えるのは数学だけで十分かもしれませんね。
※2019年7月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。
著者略歴
器用な方ではありませんが、手芸などの細かい作業が好きです
お茶の水女子大学 理学部数学科 卒業
千葉大学大学院 理学研究科数学・情報数理学コース 修了