私の進む道にいつも数学がある
【数学は実社会で役に立たないものでしょうか。】
私は、奈良女子大学の数学科を卒業後、データサイエンティストとして企業に就職し、これまで約7年間勤務をしてきました。そして、今年の秋から、認知心理学を学ぶために、アメリカのニューヨーク大学の大学院に進学します。パッと見て、統一感がない経歴だと感じられるかもしれませんが、私がこれまでのキャリアを通じて一貫して思うことは、私の進む分野の根底にいつも数学があるということです。そして、大学で数学をしっかりと学んだという背景が、そのような分野で活躍していくための強力なサポーターになっているということです。
【学生時代は、数学が社会でどのように応用されているのか掴みきれなかった記憶があります。】
私は、就職活動を通じて、多くの学生が仕事に直結する専門性を大学を通じて身につけている中で、数学が活かせる仕事とは何なのかという点にとても迷いました。当時は、自身の中で解を見出すことができず、多くの先輩方が進んでいた道に習い、システムエンジニアを目指し就職活動を行い、最初の仕事を見つけました。しかし、システムエンジニアとして勤務する予定だった私ですが、最初の配属発表の蓋を開けてみて驚き。数学の専門性を持っていた私は、システムエンジニアではなく、社内で当時新たにつくられたデータサイエンティストという職業につくことになりました。
【そして、データサイエンティストとして勤務する中で、数学に再び向き合う日々が始まりました。】
データサイエンティストの仕事は、名前にもある通り、データを科学する=データから何か価値を生み出していくことです。私は、データサイエンティストとして働いていく中で、価値を生み出していくために用いるデータ分析の手法は、数学的な根拠に基づいて構築されているということを知りました。そして、そのような手法を用いて的確なデータ分析を行っていくためには、数学的な根拠の深い理解が必要不可欠なのです。この点において、大学で数学を専攻していたという経験が、私を支える重要な強みとなりました。
データサイエンティストは今でこそ、メジャーな職業ですが、当時はまだその呼び名も浸透していない時代でした。そのため、私が数学科に所属していた頃には知ることのなかった仕事でした。このような分野に数学が使われているという事実は、数学好きな私にとって非常に嬉しく、ワクワクする経験でした。
【そんな中で、大学院留学という選択を徐々に考えるようになりました。】
データサイエンティストとして、数学の知識を活かしながら、約7年企業にて勤務した私ですが、近年急速な発展を遂げているAIに関して、より人間らしく思考することができるAIを作りたいという想いを徐々に抱くようになりました。そして、人間の思考を機械的に記述する手法を研究している認知科学を学ぶための留学に興味を抱くようになりました。その中で、私は、この分野においても、数学が基盤となっていることを知りました。特にここでは、人間の意思決定アルゴリズムを、確率論、具体的にはベイズ確率の考えを用いてモデル化しようという試みが進んでいます。認知科学という数学とは一見関係なさそうな分野において、再び数学と出会った経験は、私の好奇心を掻き立て、留学に向けてさらに積極的に活動をするようになりました。そして、無事受験を終え、2019年9月からアメリカへ留学をすることとなったのです。
【数学は社会に広く根付いているのだとキャリアを通じて体感してきました。】
これまでのキャリアにおいて、私が新しい領域に飛び込む度に、いつも数学がその領域の基盤にありました。恐らく社会では私の知らないもっとたくさんの領域で数学は使われています。社会を通じて数学と出会うそんな瞬間は、私にとってとてもワクワクする瞬間です。
しかし、そのように社会に広く浸透している数学ですが、学生時代に数学をしっかりと学んだ人材は多くありません。特に女性となるとその数は本当に限られます。これから、より数学を根底にした技術革命が様々な領域で進んでいく中で、私は現在の男性中心の業界ではなく、もっと女性も活躍をできるようになっていってほしいと思っています。
是非数学を学ぶことを誇りに思い、楽しみ、将来の輝かしいキャリアに繋げていってください。
※2019年8月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。
著者略歴
2019年9月からは、アメリカニューヨーク大学の大学院に心理学専攻で進学予定です。
特に人間の学習・意思決定の科学的なプロセスとそのモデル化に興味を持っています。
将来的には、構築した人間の認知モデルをAIに実装し、人間とAIのコラボレーション促進により、世界を変えていきたいと考えています。