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Jazz&Math

ジャズと数学

この文章を書いたのは?

音楽家、数学(STEAM)教育家

中島 さち子

数学と私–ジャズと数学

 

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私は小さい頃、作曲が大好きでした。譜面通りの練習は少し苦手(笑)でしたが、気の赴くままにメロディを繋げたり和音をつけたり…という作業は本当に楽しいものでした。当時は、子犬や風車、夢のように、子ども時代の色々な感覚をイメージして曲らしきもの?を創っていました。

なお、作曲や即興は特別なものではなく、絵を描くのと同様、誰でもできるもの!と私は心から信じています。子どもたちに出会うと、みんな即興の素晴らしい才能を持っていることに驚きます。勿論、和音等について造詣が深くなるほど世界は広がり、メロディも豊かになります。でも、基本的な作曲・即興の本質は皆の心の中にあるもの。子どもたちは、音と音が偶然必然で組み合わさったとき、想像力と感性を自由に駆使し、不思議なお話をどんどん創り出します。作曲は、絵を描くこと・砂場で遊ぶこと、そして、実は数学を創る作業とも極めて似ています。頭と心をフルに駆使しながら産み出すものだから、でしょうか。

jazz_0214歳の頃、私は一度音楽を全てやめました。代わりに私を魅了したのが数学です。私は秀才的なタイプでは決してなかったけれど、一つの問いをしつこく考え続けるのが大好きで、明けても暮れても何日も難問に格闘する日々を過ごしました。自由に発想を試し、何千回もの「失敗」の果てに自分なりの道を生み出す苦闘や景色がふと見えてくる瞬間の喜びは、作曲に似ていました。1996年高校2年生にて国際数学オリンピック(IMO)インド大会に出場し金メダル、翌年アルゼンチンで銀メダルを頂きました。IMOとは世界の約80,90の国から各代表6名ほどが集まり、4.5時間×3問×2日で美しい数学の問題に取り組む大会です。数学の答えや視点は一つではなく∞。一つの問から見える景色は、視点を少し変えるだけで大きく変わります。競技後も夜通し、色んな国の人が、斬新なアイディア、幾何的視点、計算だらけの解析的手法・・・英語や数式を使い、国や性別を超えて語り合いました。

 

同時に、インドなどで多くの国の人と出会い、私は極めて強い文化的衝撃を受けました。全く違う価値観・歴史・文化の中、学びに恋い焦がれる子どもたちがどれだけいることか!インドでは特に、学校に通えない子どもたちが通りの真ん中できらきらした”生きた”瞳を私たちに向けていました。時に笑顔や瞳は、あらゆる境界を自由に超えていきます。

また、IMOスコットランド大会協力の際には、フィールズ賞(所謂数学界のノーベル賞/4年に一度、40歳未満4名に授与)受賞者・IMO金メダリストのティモシー・ガワーズさんと会い、ピアノ連弾をしました!彼は実はプロ級のジャズピアニストなのです。(そういえば、フィールズ賞受賞者広中平祐先生や小平邦彦先生も、ピアノの名手でいらっしゃいます)。IMOルーマニア大会協力の際には、素敵なジャズピアニストが毎日私たちのホテルで演奏してくれ、彼の生き様を色々と語ってくれました。私は、音楽や数学や笑顔を通して世界と繋がる歓びを知ると同時に、自分が日本人であることを深く意識するようになりました。

※余談ですが、私の前の年(1995年)のIMO女性金メダリストのマリアム・ミルザハニ(イラン)は、2014年世界初の女性フィールズ賞受賞者となりました。1982年IMO金メダリストグレゴリー・ペレルマン(ロシア)は、かのポアンカレ予想を解き、2006年フィールズ賞を受賞・辞退しています。また、2010年フィールズ賞受賞者で数学界のレディ・ガガと呼ばれるセドリック・ヴィラーニは、音楽が極めて好きで、彼の著書「定理が生まれる」(早川書房)にはたくさんの音楽の記述も現れています。先日ヴィラーニさんとは対談の機会を頂き、数学と音楽の創造性についての話に花が咲きました。

こうして私は数学やIMOを通し多様な世界に出会い、衝撃を受け、より人間の混沌に深く関わる仕事につきたいという思いを深めました。大学では数学を専攻し整数論や表現論を学び、ラマヌジャンやラングランズに深く魅了されましたが、一方でジャズに出会い、急激に音楽の世界にも惹きつけられ没頭していきました。そして、深く悩んだ結果、卒業と共に音楽活動を開始。音楽の道を本格的に歩みはじめました。また、在学中には、数学科やIMOの仲間と共に、「現代数学の醍醐味を子どもたちに伝える学び場:K会」を立ち上げ、以来教育現場にも関わり続けています。

現在、私は作曲やピアノ演奏活動と共に、数学研究・数学音楽関連の講演・執筆・グローバルリーダー育成等のフィールドで活動しています。私の中で、数学と音楽、そして教育は似ており、いつも互いにヒントをもらっています。いずれも、創造の過程では感性や情緒の研磨が重要であり、物事の本質を(先入観にまみれた目から解放され)自然に見つめる力が問われます。人生の山を越える際の過程とも似ています。楽譜はグラフだ、音は波だ、といった観点から群論・離散数学・集合論・確率論…を音楽や感情に応用することも面白いのですが、それ以上に、芸術と数学は【創造】の点で本質的に似ている。だからこそ、数学者や芸術家のみならず、皆にとって数学や芸術は重要と考えます。また、21世紀のagile & globalな社会の中で生き抜くには、多方向から本質を探りだす数学の力がより重要になってくるはずです。皆様も生きること心を躍らせることを存分に楽しんで下さい!

REJOICE to LIVE!!!jazz_04

 

著者略歴

音楽家、数学(STEAM)教育家
中島 さち子
1996年国際数学オリンピック金メダリスト(日本人女性初)
その他、音楽・数学の講演や数学研究など、多彩に活動中

著書:『人生を変える「数学」そして「音楽」』(講談社)、『すべての人の微分積分学』『ζの世界』(共著、日本評論社)他
CD:『中島さち子TRIO "Rejoice"』他

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